双子の女

二人ともY子である。
一卵性双生児の二人のY子はルックスこそ瓜二つだったが、性格はまるっきり別人だった。

妹のY子は活発で姉御肌、感情の起伏も激しく時に非常識な行動もとる。
姉のY子はおとなしく従順、その分内に秘めた情念のようなものが体から滲み出る、どちらかというと男好きのするタイプだった。
ひょんなことから二人と知り合いになった俺は、控えめだがちょっと毒のありそうなフェロモンを漂わす、姉のY子に次第に惹かれ始めた。

節操の無いことに最初は二人の共通の友達であるA矢という女を狙っていたのだが(笑)、その相談にいろいろ乗ってもらっているうちに、いつの間にか姉のY子とできてしまったわけだ。
当時Y子には彼氏がいたが、あまりいい状態では無かったようで、別れる別れないで揉めていた。
しかし元々従順なY子はなかなか彼氏と切れることができず、最後は俺が半ば強引に奪い取った感じだ。
俺もそのころ別れた彼女を延々と引きずっている時期で、漸く何かきっかけを探そうかと思い始めた頃でもあり、目の前にあった餌に食い付いてしまったとも言える。

何にせよお互いにのめり込んでいくのにそんなに時間はかからなかった。
しかし、つきあい始めてそれ程時間が経たないうちに、思わぬ障害の存在に気付かされることになる。

そう、一卵性双生児というのはやはりもともと「一つの卵」なのだ。

二人のY子は共に性格的に未完成だった。
俺がつき合うことになった姉のY子は、妹の決断が無ければ何一つできない女だった。
そして妹は、姉にのみ俺の愛情が注がれることに異常なまでに嫉妬した。

車でデートしている時には車に強引に乗り込んで来たし、俺の部屋で会っている時には俺の部屋に電話して来た。
まるで二人は一体だとでも言うように・・・。
そしてY子は妹のそういう行動に対して、決して拒絶することができないのだった。

妹の干渉に嫌気がさして俺とY子がこっそり会うようになると、妹は同居している母親にあること無いこと吹き込み、母親が二人の交際に対し嫌悪感を抱くように仕組み始めた。
あらゆる手段を使って二人が会っていたことを突き止めては「最近Y子が嘘をついて出かけるようになった」「彼氏がそれを強制している」と母親に報告していたようだ。
その結果母親の監視はさらに厳しくなって行った。

つき合って2ヶ月も経った頃には満足に電話すら出来ない状況になっていたし、門限はなんと7時!
会えても数時間でY子は家に帰らなくてはならない状況になっていた。

それでもY子は親の目を盗んで夜中にこっそり布団の中から電話して来たし、会える時間があれば2時間だけでも会いに来た。
そして障害があるが故にお互いますますのめり込んで行った。
しかし、そんな張りつめた状態がいつまでも続くはずも無かった。

どんな情報を吹き込まれていたか知らないが、Y子の母親の俺に対する憎悪は日に日に強くなって行ったようだ。
さらに1ヶ月ほど経った頃、突然母親から電話がかかってきた。
母親は俺に、
「うちのY子と別れてください。」
と一方的に言い放つと、一方的に電話を切った。
ちょっと本人と話をさせてくれと頼んだが、全く取り付く島もなかった。
ひたすら俺に対する嫌悪感だけが剥きだしになり、俺の言葉を遮った。

一度も会ったことの無い人間に何故そこまで嫌われなければいけないのだ?
頭に血が上った俺は直ぐさま電話をかけ直した。

しかし電話をかけてもかけても、受話器を上げては切られる、上げては切られるの繰り返しで一向に話が出来ない。
何度目かの電話の時いきなり父親が出た。
これまでのY子からの情報では主に母親と妹が妨害をしているという話だったので、父親には一応丁寧に事情を説明した。
Y子さんとおつき合いさせていただいているが、先ほどお母さんから電話が来て一方的に別れてくれと言われた、しかし私にしてみれば寝耳に水で事情がよくわからない、ついては娘さんと話をさせて欲しいのだが電話も取り次いでくれない、なんとか娘さんと話させてもらえないだろうか・・・。

期待に反して父親の台詞も憎悪剥きだしのものだった。
「そりゃ、うちの母親のやってることが正しい。これ以上話すことも無い。」
そこから先は何を喋ったのかよく覚えていない。
ぶちキレた俺と父親の間でしばらくやりとりがあり、最終的に、
「そんなこと言うんだったら今からそっち行きますよ!」
「いいですよ。来れるもんなら来たらいい。」
という話になり、その時既に夜中の12時頃だったが、車すっ飛ばしてY子の家に向かっている俺がいた。

Y子の家に着くとY子が門のところで待っていた。

「やめてぇ!家の中がめちゃくちゃになるから、やめて!」
「ここでちゃんと話さなきゃこの先希望無いだろ!」
「もう無理だから別れようよ。」
「お前、こんな理不尽なことで別れてもいいのかよ!」
「ほんとは別れるのは嫌・・・でも家の中めちゃくちゃになるのはもっと嫌・・・」

玄関のサッシ戸の灯り越しに、仁王立ちしてる父親のシルエットが見えた・・・。

その日以降、もう俺から連絡する術は完全に無くなった。
携帯なんて金持ちしか持てないような時代だったし。
一度は別れを口にしたY子だったが、やはり人目を忍んで会いに来ていた。
しかし既にデートなどと呼べる代物では無くなっていた。
それまでも会える時間はかなり制限されていたものの、この時期には本当に顔を出してすぐ帰るような状況になっていた。
そして、街ではクリスマスが近づいて来ていた・・・。

クリスマスなんかに会えるはずもないので、12月の頭になんとか時間を作ったんだと思う。
ほんの数時間だったけど濃密なデートをした。
そして俺は指輪をプレゼントした。
プロポーズでは無かったが、困難に負けずに二人で未来を切り開いていこう、という意思表示だった。

クリスマスイヴの朝、俺は独身寮の部屋のドアが叩かれる音で目が覚めた。
ドアを開けるとY子が泣きながら入ってきた。

「この指輪返す・・・・」

ベッドの上に指輪を置くとそのまま泣きながら部屋から走り去った。
俺はすぐ追いかけた。
独身寮を出た道路に車が一台停まっていた。
そしてY子はその車にうなだれるように乗り込んだ。


運転席には───────────Y子の母親が乗っていた──────────────。


走り出した車の後部座席で、Y子は振り返り、見えなくなるまでずっと俺を見ていた・・・。


実はこの話にはオチがある(笑)。
だいぶ経ってからY子の友達から聞いた話なんだが、指輪を返しに来た理由、それは「俺の浮気がばれたから」だったのだ(爆)。

実はY子とほとんど連絡がとれなくなった時から、俺の中では「この恋愛はもう長くないな・・・」っていう思いがあり、次の恋愛を探し始めていたのだ。
まあ、非道い男だと思う人もいるだろうが、よくありがちな話でもあるでしょ?
で、クリスマスも見えてきた時期ってのもあって、合コンとかパーティーなんかもちょくちょくあって、たまたま知り合った女とデートしていたところを妹のY子に見られていたらしい。
デートっつってもつき合うとかそういう話も無い、知り合ったからちょっと飲みにでも行ってみる?ってなノリだったんだけどね。
ま、妹に見つかったってのが最悪で、Y子はいいように踊らされて最終的には自分の意志で指輪を返しに来たようだ。

クリスマスイヴはY子とは会えないのが最初からわかっていたし、一人で過ごすのもつまんないんで、夜はその女と会う約束をしていた(笑)。
そしたらその朝にY子から指輪を返されちゃったので、夜にはしっかりその女に乗り換えたことは言うまでもない(爆)。

その女とつき合いだした後も、Y子が母親に連れられて車で指輪を返しに来たっていう件までは実話にしてはかなりよくできている話なので、合コンの時は、
「実は最近彼女と別れたばっかでさあ、しかもかなり辛い別れ方だったし今も結構引きずってんだよね・・・」
とか言いながら、しばらくY子の話をネタにして口説いていたのでした。
最近はオチまで喋っちゃうけどね(笑)。

(2002.05.05)

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